73. 偽物について(その二十五)  守家の中心の形状

今回は少し気分を変えて頂くために別の話をしたいと存じます。さて、鎌倉時代の在銘、生中心の太刀をモデルにして、中心がどの程度の変形、つまり、減っているかを推測ではあるが、可能な限り探ってみることにする。

但し、誤解のないようにくれぐれもお願いしたいのは、本稿がその太刀にケチを付けたのではなく、あくまでも純粋に考えたものである事をご理解願いたいのである。つまり、700年以上も経って、減っていない太刀などは絶対にないのであって、逆に減っているからこそ、ある一面からいえば安心していられるのである事も、パラドックスではあるが、是非ご理解を頂きたい。

では、(A)~(C)図をみて頂きたい。これら三図は同一の太刀の中心であり、(B)(C)は原寸である。

(C)図にある①の線はこの太刀の中心の反が伏せられる前の生の棟方の線(最小限)を推測で描いてみたが、実際はもう少し反っていたかも知れない。下の目釘孔あたりの所から4センチ前後の棟方の線の曲り方をみると、”く”の字形になっているのがわかる。これは、この部分の鎬地(表裏)を叩いて反を伏せた(刃方の方へ反らした)のであり、こうした所作は生中心の太刀ではしばしば見かける。この棟方の線の曲り方の所作は(A)・(B)図ともによくわかると思うので確認して頂きたい。

この所作は柄形(つかなり・柄の形状)の違う拵に入れるために行ったと考えられるもので、同様のことは磨上をする時にも行われる作業であることは、すでに本欄や拙著『刀の鑑賞』でも述べてあるので参照頂きたい。では(C)図において②の2本の線と②’の鎬筋を推測で書き入れたが、実際はこの②や②’の線よりももっと移動するかも知れないが、大体は合致しているのではないかと思う。つまり、最小限度のラインと心得て頂ければ結構である。

さて、(B)の刃方の方に目を転じて頂きたいのであるが、下の目釘孔よりも今少し下の辺りから刃区辺までが、かなり減っているのであるが、現在の中心の刃方の線を中心尻の方から目視して頂くと、その刃方の線は曲線ではなく直線となっていて途中で逆”く”字形状になっている(矢印の辺)のがおわかりになる筈である。こうした直線状の形状の中心は健全な中心(変形のない生の状態)には本来ないもので、明らかに後世の人為的加工が施されているのである。

つまり、刃区附近が損傷を受けて、刃区の役目が果しえなくなり、致し方なく刃方の方を少しづつ棟の方へ削って、新たに刃区をこしらえたためである。こうした工作が何回となく施された結果、現状の形になったのであって、逆にそれほど何回もの工作が加えられるのであるからこそ、本太刀は長い年数を経ているという逆説明になり得る。

本太刀は殆んど生中心であるから、その変形していく中心の形状を十分に推測出来るのであるが、刀身、殊に上部はこの中心と較べようもない程に変形していく事も既述済である。何といっても刀(短刀、太刀等)は全て上の方が極めて変形しやすく、それに較べて下部、殊に中心は変形しにくいという原則ではあるが、それでもこれ位の変形はある。こうした点をあらためて認識して頂ければ結構である。

平成二十七年十一月 文責 中原 信夫