62. 偽物について(その十四) 同田貫次兵衛の偽物
本欄ではかなり以前から中心仕立の見所について述べてきたが、今回は人気刀工でもある肥後国・同田貫(どうたぬき)について述べてみたいと思う。
同田貫はかなり以前のテレビや映画で有名になり、今尚その人気は高いのであるが、こうした人気の高い刀工には、清麿、助広、真改、虎徹と同じく偽物が横行している。
併し、清麿や助広、真改、虎徹ならば、相当高価な刀となるので、ある程度は用心をする気味があっても、地方刀工の同田貫あたりにはまさか偽物はないだろうという安易な考え方が割に多くあって、一種の盲点となっている。
さて、(40)図は古刀最末期頃とされる同田貫次兵衛(じへい)という刀工で、同田貫上野介(こうずけのすけ)の一派とされているものであり、同派には清国、正国、左衛門、又八などがいて、ともに肥後国・熊本の刀工で、加藤清正の抱工ともされ、熊本城内の備刀(そなえがたな)は、これらの同田貫一派の作刀が多かったとされている。勿論、これらの多くの備刀は加藤家改易後も細川家に引き継がれ、明治に入って放出されたと聞いているが、身幅の広い、粗雑な地肌の数物に近い刀が多いので、一応参考にしておいて欲しい。
では、この(40)図をみて頂くと「九州肥後同田貫次兵衛」との刻銘があるが、特に「次兵衛」という銘字は読みにくく、「衛」の1字のみ草書体である。そして、この10文字はバラバラに刻まれているかの如く見えるが、銘字と銘字の間隔は微妙にうまく整っており「九州」はやや小さ目の銘字で、鎬地の中に概ねは収まった状態となっているが、これは同派にみられる特徴でもある。さらに、「同田貫次兵衛」の6文字は上部の4文字よりやや大きく、特に「次兵衛」の銘字は上の7文字より細く、さらに大振の文字に刻っていて、いかにも刻り慣れた銘字である。
次に(41)図をみて頂きたい。(40)図と相違する点は、第一に10文字が鎬地の中に殆んどきっちりと収まっている事である。タガネづかいは両図とも同じにみえるが、「田」の銘字は(41)図は左下に歪んだ状態となっている。また、「次」と「兵」の銘字が接近しすぎているのも甚だしく、銘文のバランスを欠いている。そして、(41)図の「後」の「彳」偏の3画目(縦棒)は目釘孔に極めて近接しており、しかも真直な縦棒ではなく、完全に蹌踉(よろ)けてしまっているし、縦棒だけが太すぎ、旁(つくり)の「A図-参照」が細く狭苦しくなっている。
同じく「同」の銘字の第一画の縦棒も(40)図はサラリと左斜目下方向へ流していて自然であるが、(41)図のそれは斜目方向がきつくなってガッチリと刻りすぎている。また、「貫」の「母」の横棒(第4画目)をみて下さい。(40)図のものは始めと終わりにアタリタガネとヌキタガネは打っていますが全体に同じ太さでサラリと刻っています。併し、(41)図のそれは横棒が異常に細く、逆に始めのアタリタガネと終わりのヌキタガネが異常に目立って強く打込まれています。
同じことは「衛」の銘字(草書)の縦棒にもありまして、(40)図ではやや左下方向に少しカーブ気味に鎬筋の真上にかけてサラリと何の外連味(けれんみ)もなく、ごく自然に刻っていますが、(41)図のそれは真直に刻っていまして、よくみるとタガネの太さに差があり、しかも蹌踉(よろ)けているのがよくわかります。他にもありますが、こうした見所を考えると(41)図は?となります。以上が銘字についての私の見方です。以上が銘字についての私の見方です。
さて、ここまで述べますと、一部の人達は”同じ銘字は刻れないし、、、”などと必ず反論してきます。
次に中心の仕立について述べたいと存じます。では(40)図と(41)図の中心尻をみて下さい。(40)図は中心尻が張っていますが、(41)図のそれは細くなって張ってはいません。概ね、同田貫一派の中心尻は張るものですから、中心全体の形が違います。併し、(41)図の銘に疑問を感じない人達は、中心棟を削ったので(41)図の様になったと抗弁すると思います。併しながら、この抗弁(反論)は通りません。何故なら(41)図の鎬幅(中心)は「州」の銘字から中心尻までかなり広くなっています。中心棟を削ったのならば中心尻に近くなるにつれて鎬幅が狭くなりますので、(41)図は中心棟は削られてはいないことになります。又、(40)図の鎬筋は目釘孔と接してはいませんが、(41)図ではかなり目釘孔の方(左側)へ鎬筋が入り込んでいます。仮に(41)図の目釘孔を拡げたと考えても、(40)図の目釘孔の太さと、(41)図のそれが同じ太さでありますから、全く理屈は通りません。中心の仕立(作り方)が全く違うということになります。
殊に注目して頂きたいのは、(41)図の「州」のあたりから、上の「九」の銘字の左側にかけての鎬筋でありまして、明らかに中心棟の方に曲がっています。つまり、在銘部分の鎬筋が曲がる事は絶対にあってはならない事で、そこが曲がるという事は、そこにある銘は×という事でありまして、(40)図では微塵もそうした歪(ゆがみ)や曲(まがり)はありません。
これで(41)図は×という結論になります。併し、(41)図には鑑定書が付帯しているわけですから、どの団体か知りませんが、(41)に○をつけたのなら、全く鑑定業務に携るべき能力はないと存じます。(40)図と全く一緒の銘字であるから(41)を○としたというのかも知れませんが、銘字が同じという本当の見方を知らない、理解していない、全く困った審査委員たちですね。
尤も、私が茲に述べました事は、実は順序が逆の説明をしたのであります。つまり、中心の仕立(鎬筋の歪と中心尻の形など)からだけで(41)は×となるのでありますが、それを色々と証拠づけをするのに銘字についての説明をするのが、本当は一番正しい順序と姿でありましたが、併し乍ら、今回は敢えて順番を逆にして、銘字の見方、捉え方を先に述べたまででありまして、他意はありません。
同田貫のような地方刀工などの銘字や銘振などにも上手さや統一性のある点などを理解せず、地方刀工と侮って全く意に介さないような人達に、あらためて反省を求めたいと存じます。
(平成二十六年十一月 文責 中原 信夫)