82. 法量について
刀の法量というと、身幅(元と先)、重ね(元と先)、他に刃長、反というのもあるが、元幅について少し話をしたい。では(1)・(2)図の(C)の直線を見て下さい。この(C)が身幅であり、棟筋(庵の頂点)から刃先までの直線距離である。従って鎺元(刃区と棟区を一直線に結んだ所・鎺を装着する所)で計れば元身幅(元幅)といい、横手筋の所を同じ様に計ったのを先身幅(先幅)という。横手がない造込では棟筋先(切先の尖端部)から一寸~二寸位の所で計るしかない。
では、重ねはとなると、これが少し難しくなる。というのは、鎬の高さが微妙に関係してくるからである。
(1)図は一般的な本によく示されているもので、概ね(B)の部分(表裏の鎬筋間の直線距離)を重ねというものとされている。又、中には(A)の所、つまり表裏の棟角の直線距離を重ねと解説した古い本もあるが、こうした本を書いた方は、鎬の高さを全く考慮に入れていないので誤りである。(1)は鎬が高い造込となっているために、計測すれば(B)が重ね(最大)となる。当然、鎬のない平造は棟角(表裏)の直線距離が重ねとなる。
先重ねは横手がある造込では先幅を計った部位の重ねとなる。併し、殆んど全部の刀は必ず上部にいくにつれ鎬は高くなっている事実を認めないといけない。これは鎬地のある造込は鎬地を取り崩(整形)して刀の姿、鎬幅を極力保つのであって、最終的に鎬の高さに全てシワ寄せがくるのである。
(1)は鎬の高い状態を示しましたが、(2)はその逆の状態であります。(1)の(A)と(B)では(B)の方が厚く、台形のような鎬地となっています。これを鎬が高いといいますが、では(2)の(A)と(B)を比べて下さい。図示が上手ではないんで、誠に恐縮ですが、(2)の(A)は(B)よりも厚いのです。こうしたケースはどの本にも記述されていなかったと存じますが、拙著『刀の鑑賞』(普及版)では少し触れました。こんな事は嘘だと思われる方が多くおられるかと存じますが、一見しただけでは極めて気付きにくく、見過ごすものであります。
私は長い間、押型をとってきました。その折に刀の調書をとりますが、こうしたケースは少ないのですが実際にあるのです。私は調書をとる時は刀を傷付けないために木製ノギスを使って元幅や元重ね、先幅や先重ねを計りますが、その時、棟を下にして刀身をノギスでピタッとはさむと、(2)の(B)より(A)の方が少し厚い事があるのです。私も見間違いかと思って計り直しても、(1)ではなく(2)の状態となった作例をみています。勿論、鎺元の所の付近でありまして、刀身の中程から切先に近づくにつれて、(2)の状態も段々と(1)の状態か、それに近い状態になってくる傾向があります。
これは前述の様に研磨による整形・変形でありまして、こういう風にして整形し、姿恰好を何とか維持していくのでありますから、何百年も前の太刀、刀が残されているのです。従いまして(2)では(A)部(棟角部)が重ね(最大)となります。
少し元に戻りますが、身幅についても棟角から刃先迄の直線距離とする考え方がありますが、これは間違いであって、(1)・(2)図の(C)の様に棟筋(庵の頂点)から刃先迄の直線距離が身幅であります。
因みに、一般的な押型(切先から物打の部分)では、棟筋を入れたものが殆んどでありますが、庵の片面をそのまま写しとったか、若しくは刀身を見ておよその庵の高さを適当に描いてあるものです。押型には棟角の線(この棟角の線状態が反となっている)が最大の急所(見所)であります。併し、三次元の刀を二次元の紙面に写しとるには少し無理が生じて当然であり、棟筋を入れるのは更に大きな誤りであります。
平成二十八年八月 文責 中原 信夫